大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(く)200号 決定

被請求人 山内豪

〔抄 録〕

所論は、要するに、被請求人が保護観察時の遵守事項に違反した事実を認めながら、右違反が刑法二六条ノ二第二号にいう「其情状重キトキ」に該当しないとして、本件刑の執行猶予の言渡取消請求を棄却した原決定は不当で、取消を免れない、というのである。

そこで、原審記録を精査して検討するに、関係資料によると、被請求人が主文第二項掲記の被告事件につき、昭和五八年八月二九日に長野簡易裁判所において、懲役一年、三年間保護観察付き執行猶予の判決を言い渡され、同年九月一三日に右判決が確定して、長野保護観察所の保護観察下に入ったこと、ところが、被請求人が、(一)昭和六〇年四月五日に普通乗用自動車を無免許で、通行区分に違反して、運転し、同月一一日に諏訪簡易裁判所において、罰金三万六〇〇〇円に処せられ、(二)次いで昭和六一年一月の四、五、七、八、九の各日にも、それぞれ普通乗用自動車を無免許で運転し、同年五月一四日に長野地方裁判所諏訪支部において、懲役四月の実刑に処せられた(但し、被請求人から控訴の申立があり、上訴審に係属中)こと、更に、被請求人があらかじめ保護観察所長に届け出ることなく、(三)昭和五九年五月上旬ころ、長野県茅野市北山五五一三番地の横谷温泉旅館内から、同市本町東四番三三号に、(四)次いで昭和六一年二月上旬ころ、同所から肩書住居地に、それぞれ住居を移転したことなどの各事実が明らかである。

そして、被請求人の右無免許運転及び無届転居の各所為が、執行猶予者保護観察法五条の一号及び二号に定められた遵守事項に、それぞれ違反していることはいうまでもなく、この点は原決定も認めているところである。

よって、次に、右の違反が刑法二六条ノ二第二号にいう「其情状重キトキ」に該当するか否かについて検討することとする。

関係資料によると、被請求人は、運転免許を受けたことがなく、運転技術も未熟であるのに、単に自動車に乗りたいという理由で、他人と金を出し合って外車を求め、前記(一)のように、これを運転したものであること、昭和六〇年一一月ころ、同せい中の井出まさみと相談して、二人で遠出するなどの目的で普通乗用自動車を購入し、以来、歩いても行ける程の距離にある美容室に勤める右井出の朝晩の送り迎えや、パチンコ店に行くときなどにしばしばこれを運転していたものであって、前記(二)の各無免許運転はその一端であることが認められる。これらの事実によると、無免許運転は執行猶予になった窃盗や住居侵入とは罪質の異なるものではあるが、犯情は重く、右(二)の各無免許運転の罪について、第一審の裁判所が被請求人を懲役四月の実刑に処したのもうなずけるところである。

また、右関係資料によると、被請求人は、事前の届出を不可能とするような特段の事情がなく、届出をしようと思えば容易に届け出られたのに、前記(三)、(四)のとおり二度も無届けで転居し、転居後も、納得するに足りる理由もないのに、それぞれ約二〇日間も届出を放置していたことが認められる。

そして、右関係資料によると、その後、被請求人が自発的に転居の届出をしているので、保護観察からの離脱、逃避を図って故意に届出を怠ったものとは思われないが、被請求人は保護観察を軽視し、保護観察を受けて更生しようとする意欲があったものとは、到底認められない。

しかも、関係資料によると、被請求人は、本件保護観察に付された後、旅館、飲食店及びパチンコ店等の従業員として、ほぼ間断なく就労していたが、昭和六〇年七月に、かねてから知合いの井出まさみと同せいを始めるようになったころからは、時たま土方仕事に出ることはあっても、ほとんど毎日のように、パチンコ店等に出かけて遊び暮らすという徒食同然の生活に終始しているのであって、被請求人が前記の遵守事項とともに履行を誓約した「定職について、まじめに働くこと」及び「本件を機会に心を入れかえ、規則正しい生活をすること」などの指示事項に違背していることも明らかであるといわねばならない。

このようにみてくると、被請求人の最近の行状は芳しくなく、その遵法精神の欠如ぶりにも著しいものがあって、その遵守事項違反は情状が重いと断ぜざるを得ず、被請求人が、前記井出まさみと近々正式に結婚する予定であること、現在は植木職人を目指して、まじめに就労していることなどの原決定が説示している諸事情を考慮に入れても、この結論に消長を来たすものとは考えられない。

そうすると、被請求人の遵守事項違反が、前記の「其情状重キトキ」に当たらないとして、本件刑の執行猶予の言渡取消請求を棄却した原決定は、不当であることに帰する<。>

(坂本 田村 本郷)

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